高齢者でも多焦点眼内レンズは使える?眼内レンズの選び方と注意点を解説

加齢とともに多くの方が経験する白内障。
視界がかすむ、まぶしく感じるなど、生活の質に影響を与えるため、手術を検討する高齢者の方は少なくありません。
そして、近年では「多焦点眼内レンズなら眼鏡なしで生活できるのでは?」と関心を持つ方が増えています。
しかし、多焦点眼内レンズは誰にでも適しているわけではなく、高齢者では特に注意すべき点があります。
この記事では、高齢者に多い白内障の基本から、多焦点眼内レンズの仕組み、単焦点レンズとの違い、そして高齢者がレンズを選ぶ際に知っておきたいポイントまで、わかりやすく解説します。
多焦点眼内レンズを検討中の方や、ご家族の眼内レンズにお悩みの方はぜひご覧ください。
高齢者に多い白内障とは?

白内障は高齢者に最も多くみられる眼疾患のひとつで、水晶体(レンズの役割を持つ組織)が加齢とともに濁ってくることで起こります。
水晶体は本来、透明で光を網膜へ正確に届ける働きを担っていますが、濁りが生じると光が散乱し、ものがかすんで見えたり、視界全体がぼやけたりします。
加齢による白内障は誰にでも起こり得る自然な変化で、特に70代以上では発症率が大きく上昇します。
初期段階では自覚症状が乏しいことも多く、「最近見えづらい」「まぶしさを感じる」といった変化があって初めて受診される方も少なくありません。
ここでは、白内障の原因や症状、手術で使われる眼内レンズについて詳しく解説します。
白内障の原因と症状
白内障の最大の原因は加齢です。
水晶体はたんぱく質の集まりでできていますが、年齢とともにその構造が変化し、透明度が落ちていきます。
ただし、老化以外にも主に次のような要因で進行が早まることがあります。
- 紫外線ダメージの蓄積
- 糖尿病などの全身疾患
- ステロイド薬の長期使用
- 過去の目のけが
白内障が進行すると、次のような症状が現れます。
- 視界全体がかすむ・ぼやける
- 暗い場所や夜間に見づらい
- 色がくすんで見える
- 光がまぶしく感じる(グレア)
- 光の周りに輪が見える(ハロー)
- 片目で二重に見える
初期は気づきにくいこともありますが、進行するにつれ日常生活に影響が出やすくなります。
症状が続く場合は早めの眼科受診をおすすめします。
白内障手術に使われる眼内レンズ
白内障手術では、濁った水晶体を取り除いた後に眼内レンズ(IOL:Intraocular Lens)を挿入し、焦点を合わせる機能を補います。
高齢者の白内障治療では、主に次の2種類のレンズから選択します。
- 単焦点眼内レンズ
- 多焦点眼内レンズ
ここでは、この2種類の眼内レンズについて紹介します。
単焦点眼内レンズ
単焦点眼内レンズは、一つの距離にピントが合うレンズです。
遠く・中間・近くのいずれかに焦点を設定し、焦点以外の距離では眼鏡を併用する必要があります。
見え方の質(鮮明さ)が高く、夜間の運転など光量が少ない環境でも比較的見やすいのが特徴です。
多焦点眼内レンズ
多焦点眼内レンズは、二つ以上の距離にピントが合う設計で、遠方・中間・近方をバランスよく見たい方に適しています。
老眼の症状も同時に改善できるため、眼鏡をなるべく使わずに生活したいという方に選ばれるケースが増えています。
ただし、単焦点レンズに比べると、光が散乱しやすくハロー・グレアが出やすいという特徴があります。
どのレンズが適しているかは、視力のニーズ・生活スタイル・持病の有無によって変わります。
医師による検査と相談のもと、それぞれのメリット・デメリットを理解した上で選択することが重要です。
多焦点眼内レンズとは?

多焦点眼内レンズは、白内障手術で濁った水晶体を取り除いた後に挿入する人工レンズの一種です。
従来のレンズが特定の距離にしかピントが合わないのに対し、多焦点レンズは複数の距離に同時に焦点を合わせられるように設計されたレンズです。
ただし、多焦点レンズは誰にでも適応できるわけではなく、目の病気の有無や生活スタイルによって向き・不向きがあります。
手術前に医師と十分に相談することが大切です。
多焦点眼内レンズの仕組み
多焦点眼内レンズには、レンズの中に複数の焦点をつくる特殊な構造が組み込まれています。
例えば、下記のような焦点が設定されます。
- 遠くを見るための焦点
- 近くを見るための焦点
- (レンズの種類によっては)中間距離の焦点
実際にどの距離が見えるかは、入り込んだ複数の焦点情報を脳が使い分けることで実現しています。
手術後は、脳が新しい見え方に慣れるための適応期間が必要で、数週間〜数か月かけて徐々に自然な視界へと落ち着いていきます。
近年は、遠・中間・近距離の3点に焦点を合わせられる三焦点レンズも登場し、より幅広い距離が見やすくなっています。
どのような種類の多焦点眼内レンズを取り扱っているかは、クリニックによっても違いがあるため、事前に医師と相談することが大切です。
他の手術との比較
白内障手術では多焦点レンズのほかに、従来から使われている単焦点眼内レンズ、そして屈折矯正手術として行われるICL手術など、複数の選択肢があります。
それぞれ特徴が異なるため、患者さんの視力の状態やライフスタイルに合わせて選ぶことが重要です。
単焦点眼内レンズ
単焦点レンズは、一つの距離だけにピントを合わせることができます。
ピントを遠くに合わせると、手術後は遠方がクリアになりますが、以下の距離では老眼鏡が必要になります。
- パソコンや読書など近い距離
- 中間距離(料理、デスクワークなど)
焦点をどこに合わせるかは、医師とのカウンセリングを経て、患者さんのライフスタイルに合わせて設定されます。
単焦点レンズは、見え方の安定性が高く、夜間の光のにじみ(ハロー・グレア)が少ないことから、夜間運転が多い人や、確実で安定した見え方を求める人に適しています。
また、費用面では保険診療の適用となり、多焦点レンズより費用を抑えられる利点もあります。
ICL手術
ICL手術は、白内障手術とは異なり、自分の水晶体は残したまま、目の中に追加のレンズを入れる屈折矯正手術です。
強い近視・乱視の改善に優れており、レーシックが適応外の方でも受けられる場合があります。
ただし、ICLは白内障治療ではないため、将来的に白内障が進行すれば、別途白内障手術が必要になります。
その際はICLを取り出してから眼内レンズを挿入するなど、手順が複雑になる場合もあります。
高齢者の眼内レンズの選び方

白内障手術で挿入する眼内レンズは、一度入れたら基本的に取り替える必要がないため、どのレンズを選ぶかは今後の生活の快適さに大きく影響します。
選択のポイントは普段の生活で何を重視したいかを考えることです。
読書や家事、運転、趣味などの場面を思い浮かべながら、自分の生活スタイルに合ったレンズを選ぶことが大切です。
眼内レンズに年齢制限はない
眼内レンズは高齢の方でも使用でき、年齢による制限はありません。
ただし、緑内障など白内障以外の目の病気がある場合は、選べるレンズが限られることがあります。
どのレンズが適しているかは、目の状態や検査結果によって医師が判断します。
単焦点眼内レンズが向いている人
単焦点レンズは、設定した距離にはピントが合いますが、ピントが合っていないところを見る際には眼鏡が必要になります。
ここでは、そのような特徴のある単焦点眼内レンズが向いているのはどんな人かを紹介します。
眼鏡をかけるのが負担ではない人
単焦点レンズは、遠くか近くのどちらかに焦点を合わせるため、もう一方を見るときには眼鏡が必要です。
そのため「場面に応じて眼鏡を使い分けても構わない」「読書や細かい作業は眼鏡を使う方が安心」という方に適しています。
夜間の運転をする人
夜間の運転では、対向車のライトがにじんだりまぶしく感じたりするハロー・グレア現象が少ないレンズが望まれます。
単焦点レンズは多焦点レンズに比べてこの症状が起こりにくいため、夜の運転が多い方でも選びやすいレンズです。
見え方の質を大切にしたい方
単焦点眼内レンズは、多焦点眼内レンズに比べて、ピントが合う距離では自然でコントラストの高い見え方が得られることが多いです。
そのため、見え方の質が高くなったり、色の違いがわかりやすくなったりする場合があります。
特に色の濃淡を裸眼で見やすくしたいという方には、単焦点眼内レンズが向いています。
多焦点眼内レンズが向いている人
多焦点レンズは遠くも近くもバランスよく見えるよう設計されたレンズです。
眼鏡の使用頻度を減らしたい方や、生活の中で距離の違う対象を頻繁に見る方に適しています。
ただし、明るさやコントラストがやや低下することがあり、慣れるまで数週間〜数か月かかることもあります。
眼鏡なしで生活したい人
多焦点眼内レンズは、日常の大半を裸眼で過ごしたい方に向いています。
「家事をするときに眼鏡が曇るのが煩わしい」「趣味や仕事で近くと遠くを交互に見ることが多い」などという方にも好まれます。
近視や老眼の症状も矯正したい人
多焦点レンズは白内障治療に加えて、近視や老眼といった屈折異常の矯正にも役立ちます。
「老眼鏡を頻繁に使うのがストレス」「これを機に眼鏡生活を減らしたい」という希望がある場合に適しています。
夜間の運転をする機会が少ない人
多焦点レンズでは、光がにじんで見える『ハロー』やまぶしさを感じる『グレア』が生じることがあります。
そのため、夜間の運転があまりない方のほうがストレスなく使える傾向があります。
高齢者の多焦点眼内レンズの注意点

多焦点眼内レンズは、眼鏡に頼らず生活したい方に便利な選択肢ですが、高齢になるほど目の状態や視覚機能に影響が出やすく、十分な効果が得られない場合があります。
ここでは、高齢者の方が多焦点眼内レンズを検討する際に特に注意したいポイントを解説します。
白内障以外の病気があると使用できない
加齢とともに、白内障以外にも緑内障・黄斑疾患など視力に影響する病気を抱えている方が増えます。
これらの疾患があると、多焦点眼内レンズの特性を十分に活かせないどころか、見え方が不安定になる可能性があります。
眼底や視神経の状態が健全であることが多焦点レンズの大前提となるため、術前検査で医師が不向きと判断することもあります。
多焦点眼内レンズの適応能力が落ちている可能性
多焦点レンズは、複数の距離の像を脳が自然に選び取る『脳内適応』が欠かせません。
しかし、高齢になるほどこの適応力が低下しやすく、遠く・近くの見え方の切り替えに時間がかかったり、慣れるまでにストレスを感じる方もいます。
その結果、見えにくさを自覚しやすく、多焦点レンズのメリットを得にくい場合があります。
眼鏡をかけた方が見やすいこともある
加齢によって目の神経の働きが弱くなると、より多くの光が必要になります。
多焦点レンズは光を複数の焦点に分ける構造のため、1つの距離に届く光の量が減ることがあり、鮮明さが損なわれることがあります。
そのため、高齢の方では単焦点レンズを使用し必要に応じた眼鏡の方が、クリアで安定した視界を得られるケースが少なくありません。
瞳孔が小さくなるためレンズのメリットを享受しきれない場合もある
高齢になると自然に瞳孔が小さくなり、目に入る光の量が減ります。
この状態では、多焦点レンズの仕組みが十分に機能せず、見えづらさを感じやすくなります。
また、瞳孔が小さいことで焦点が深くなり、単焦点レンズでも一定範囲を見渡しやすくなるため、多焦点レンズを選ぶ利点が相対的に小さくなる場合もあります。
まとめ
白内障手術で使用する眼内レンズは、単焦点・多焦点などいくつかの種類があり、高齢者の目の状態や生活習慣に合わせて最適な選択肢が異なります。
多焦点眼内レンズは眼鏡なしで生活できる利点がある一方、年齢による調節力の低下や、瞳孔が小さくなることにより、本来の性能を十分に発揮できない場合もあります。
また、緑内障や加齢黄斑変性など、白内障以外の病気があると選択が難しくなることもあります。
白内障手術を検討している高齢者の方は、医師と相談しながら、見え方の希望や生活のスタイルに合ったレンズを選ぶことで、術後の満足度を高めることができます。
『札幌ひかげ眼科・目もとの美容外科クリニック』では、眼科専門医である院長のもと、豊富な知識と経験を持った医師や看護師がチームとなって患者さんの術後の生活を考えながら治療を行います。
眼内レンズでお悩みの方は、お気軽にご相談ください。
記事監修者
札幌ひかげ眼科・目もとの美容外科クリニック 院長
日景 史人

経歴
- 2005年 札幌医科大学医学部卒業
- 2007年 札幌医科大学 眼科
- 2008年 苫小牧市立病院 眼科
- 2010年 伊達赤十字病院 眼科
- 2012年 札幌医科大学 眼科
- 2016年 札幌医科大学大学院 医学博士取得
- 2016年 札幌医科大学 眼科 助教
- 2016年 アメリカミシガン大学糖尿病代謝内分泌科
- 2021年 札幌医科大学 眼科 准教授
- 2023年 札幌医科大学附属病院 眼科 病院教授
- 2024年 札幌ひかげ眼科・目もとの美容外科クリニック 開院
